言語は経済に似ている——その4 (完結編)

「言語は経済に似ている」をテーマにいろいろと書いてきましたが、今回で、そろそろまとめたいと思います。

文豪ビクトル・ユーゴーが、『レ・ミゼラブル』を出版したときに出版社に送った手紙が、世界一短いと言われています。それは「?」のみであったようです。「売れていますか?」「印税は?」「反響はありますか?」などの意味が込められていると考えられています。この手紙に対する出版社も粋な返事を出しました。「!」のみだったようです。「売れていますよ!」「印税は準備しています!」「反響は抜群です!」といった意味が読み取れます。このやりとりが、最も経済的な言語の使い方で、言語の経済性原理からすると、このやりとりは言語経済界の最高峰に位置すると言っても過言ではありません。

言語の経済性を100%突き詰めると、「以心伝心」という禅の境地になります。言葉を全く使わないで、コミュニケーションができる術は、言語経済性100%の秘宝と言えるでしょう。「以心伝心」を英語では、「理解」(input)の部分を強調すると、tacit understanding(暗黙の理解)と訳せ、「伝達」(output)の部分を強調すると、telepathic communication(テレパシー的コミュニケーション)と訳せます。

ところで、<文化>は、<経済>という基盤の上に花を咲かせます。文明が発達しているかどうかにかかわらず、人々が経済的に安定しているところに文化が栄えるものです。未開の地域であっても、狩猟や採集、遊牧などで食べていける状況であれば、文化は存在します。文化を説明するのに、経済を語らざるを得ないとも言えるのです。

文化と経済の関係は、文と文法の関係に似ています。一般に、<文>は<文法>という基盤の上に成立します。文法がないと文は生成されません。文を説明するのに、文法は不可欠であると言ってもよいでしょう。つまり、次のようなモデルが想定できるわけです。

 

文化

 

経済

 

 

 

文法

 

文法は経済に似ていて、文が文化に似ているので、「文法は文の経済学」、「経済は文化の文法」と言えると思います。

 

文の根幹に「経済性」があることを、私の専門の理論言語学では主張しているので、<文をいかにして経済的にするか?>というのは、文法のテーマであり、その意味から「文法は文の経済学」と言えるのです。そして、文法を研究する私は、<文の経済学者>(sentence economist)ということになります。

 

一方、文化の成立はやはり、経済の影響を強く受けるので、経済という学問の追究者は、<文化の文法学者>(cultural linguist)と言えるでしょう。

 

<完>

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