五母音仮説 その5

今回は第6章を紹介します。日本語の不思議に着目しています。

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6. 五母音と日本語

日本語と5母音の関係はいろいろあるが、特に次の3つの事象について述べたい。

 (21) a. 五十音図

        b. 五段活用

        c. 言霊

この章では、この3つの事象について、五母音との関連で考察する。

 

6.1.   五十音図

(21a)については、五十音図は、日本語の仮名文字を並べるシステムとして存在しているが、これが、五母音を最初の列にして展開している。このこと自体が、日本語という世界における五母音の重要性を暗示するものである。参考までに五十音図を挙げておく。

 (22) 五十音図

行   段

ア段

イ段

ウ段

エ段

オ段

ア行

カ行

サ行

タ行

ナ行

ハ行

マ行

ヤ行

ラ行

ワ行

 あ

 か

 さ

 た

 な

 は

 ま

 や

 ら

 わ

 い

 き

 し

 ち

 に

 ひ

 み

 い

 り

 ゐ

 う

 く

 す

 つ

 ぬ

 ふ

 み

 ゆ

 る

 う

 え

 け

 せ

 て

 ね

 へ

 め

 え

 れ

 ゑ

 お

 こ

 そ

 と

 の

 ほ

 も

 よ

 ろ

 を

  注:通例五十音図には「ん」は含まれない。

五十音図では、当たり前だが、「あいうえお」(完全五母音列)が真っ先に現れる。別の形で、日本語の仮名を並べたものに「いろは歌」がある。いろは歌には暗号説があるので、紹介しておこう。

 (23) いろは歌の暗号

    いろはに

    ちりぬる

    よたれそ

    らむうゐ

    やまけふ

    あさきゆ

    ゑひもせ

いろは歌を7文字ごとに区切って最後の文字を縦読みすると「咎なくて死す」(=無実の罪で殺される)と読め、5文字目を縦読みすると「本を津の小女」(=この本を津の妻に[届けてくれ])と読める。

いろは歌の最初の7文字には五母音は揃わない(いろはにほへと⇒IOAIOEO)が、7文字目の縦読みに五母音が揃う(とかなくてしす⇒OAAUEIU)点が興味深い。

 

6.2. 五段活用

日本語の文法に目を向けると、五母音と関係が深いのは、(21b)の五段活用である。日本語の動詞の中に、五母音を用いて変化するものが存在していること自体、五母音の重要性を示すものであると考えられる。1つ例を挙げて示す。

 (24) カ行五段活用・・・・書く

   未然形 か、こ    ない、書

   連用形 き、い    たい、書

   終止形 く     

   連体形 く      とき

   仮定形 け     

   命令形 け               

更に、日本語において母音が大きな役割を果たすのは、動詞はuを含むウ段で終わり、形容詞は「い」(i)で終わり、形容動詞は「だ」(da)で終わる。また、過去形は過去の助動詞「た」が用いられるので、過去を表す全ての文が「た」(ta)で終わる。

「た」の意味を理解した文法好きの外国人が、初めて過去のことを語る人の言葉を聞いて「・・・た・・・た・・・た」というようにリズミカルに「タ」が繰り返されるのに感動したと言う。

いずれにしても、五十音図のア行の最初のa, i, uには極めて重要な役目があると言える。

 

6.3. 「ス」と「ハ」の言霊

(21c)の言霊というキーワードは重要である。古来、日本語の文字(音声)の1つ1つに魂が宿るという発想があり、だからこそ、言葉をみだりに使わない、特に、マイナスイメージの言葉を使わないという暗黙のルールが存在する。注7

言霊と五母音との関係を論じるのに、最適の五母音語がある。それは「スメラミコト」(UEAIOO)である。「スメラミコト」とは、天皇に対する尊称で外交文書に用いられたという表現である。この言葉の最初に五母音が並び、最後に一つOが付くのみである。

「スメラミコト」の「スメラ」とは、「澄める」や「統べる」(「統治する」の古語)からきていると考えられている。

また、「スメラ」の「ス」とは、「全て」の「ス」で、「主」・「首」・「将」・「頭」・「心」・「芯」・「真」・「素」・「祖」・「礎」などに通じると言霊学では発想する。つまり、「ス」とは要・中心を表すわけである。現代日本語の「集中」や英語の中心を表すcenterも「S(H)音」で始まっている偶然の一致も興味深い。注8

中心を意味する「ス」に対し、端を意味するのは「ハ」であるとされる。「端」・「葉」・「歯」は「ハ」と読む場合があるが、「葉」は枝の端についており、歯は横顔を想定すると、顔の端に付いていることになる(「端」は文字どおりなので説明は不要であろう)。

また、「花」や「鼻」も、それぞれ植物の外側(端)と顔の外側(端)に付いているので、「はな」と発音するという。

更に、「晴れる」・「腫れる」・「はみ出る」・「はらむ」・「はぜる」・「はらう」などは広がりを暗示するが、この広がるという意味は、そもそも大きくなることで、実体の端が外へ伸びることを意味するので、「ハ」の言霊的意味を潜在させている。注9

ABです」という日本語の重要構文において、「ハ」と「ス」が使用されているが、基本的に「Aは」というのは、「Aについては」の言い方、つまり、<「Aに所属する、Aの周りの」こと>を話題にするという言い方で、Aそのものを論じているのではない。Aそのものを論じる場合は「ABです」という言い方をする。

ところが、「ABです」において、Bは中心的になる。つまり、Bを強調するわけである。Bが中心であることを示すために「ス」が用いられていると考えられないであろうか。言語学的にもこのことは言え、英語では強調構文が、それに相当する。

 (25) a. ABです。⇒ [話題(A)+は][焦点(B)()]

           b. It is B that A   [it is 焦点(B) that 話題(A)] 注10

 

6.4. 「マ」と「ミ」の言霊など

2つの文字の組み合わせも、興味深い言霊を形成する。五母音のうち「ア」と「イ」の音を含む「マ」(真・間⇒真実・空間)と「ミ」(実・身⇒実体・身体)と、五十音図の最初のア行からハ行のア段、すなわち、「ア」「カ」「サ」「タ」「ナ」「ハ」との代表的組み合わせを図表で示し、簡単に解説する。

  (26) 五十音図の言霊的意味展開

1

その意味

2

組み合わせ

意味的展開(読み方)[意味]

天・無現

微・創造

差・分散

魂・個性

成・融合

派・展開

アマ(アなる間)

カミ(カなる実)

サマ(サなる真)

タミ(タなる身)

ナミ(ナなる身)

ハマ(ハなる間)

天(あま)[無限の広がり]

神(かみ)[微かな実体]

様(さま)[見える真実]

民(たみ)[個性を持つ身体]

波(なみ)[融合する身体]

浜(はま)[広がる空間]

(26)では、更にア・カ・サ・タ・ナの順に展開していく。つまり、最初に無限の広がりがあり(=あま)、そこから微かな実体(=かみ)が生まれ、それが見えるようなもの(=さま)となる。その段階では、見えないものから見えるものへ進化したことを示す。「さま」とは「様子」のことである。その後、個性が発生し(=たみ)、民となる。民(個性のある身)が、つながって集合体になったもの(=なみ)は、波である。この集合体が大きく広がり個性が消えたもの(=はま)が浜である。これをイメージ図で示すと次のようになる。

 (27) アカサタナハの展開注11      

  

 

 

●●● 

○○○○

      あま      かみ         さま       たみ         なみ           はま

   注1:「あま」は何もない空間なので図で表せない。

   注2:●は個性を示し、○は個性が消えた状態を示す。

「ま」と「み」の言霊、「あ」「か」「さ」「た」「な」「は」の言霊、そしてその組み合わせの意味を概説したが、これらの日本語の文字も、その原点は子音と母音であり、日本語の仮名文字はこの融合体である。つまり、基本はAIUEOという母音のいずれかが潜んでいる。この母音が異なると、言霊にも大きく影響する。その意味で、日本語においては母音が重要ということになってくるのであろう。注12

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注7  「梨」は「なし」と読めばマイナスなので「有の実」と言ったり、会を閉じることを逆に「お開き」と言ったりするのは、言霊の力が影響している。

注8  この箇所の記述は、参考文献にある『英語マンダラ発想法』(p.212)による。また、新神道(大本教、世界救世教など)では「スの神」を世界中心の神としている。

注9「晴れる」は、雲がなくなり空が晴れ渡ると広がりを感じ、それが空間の端を広げている。「はらう」は塵が一か所に集まったものを広く拡散させることである。

注10   isSが「ス」を暗示し、中心的なもの(=焦点)が直後に来ている。ちなみに「焦点」のローマ字もSで始まるが、これも偶然か。

注11「カ」は「微妙なもの・変化するもの」(=存在は肯定できるが認識ができないもの)を表すので、形容詞では「かすかな」「か弱い」「か細い」など、また、動詞では「隠れる」「枯れる」「変わる」などが生まれ、また、微妙だからこそ、「それは何だろう」という疑問の意味に展開する。疑問の「か?」は「か」の言霊の意味が表れている。「神」は「隠り身」からきているという説もある。「火」(か)と「水」(み)から来ているという民間語源もある。更に、「な」については、個性を許したまま融合していくという意味をコアに持つ言葉「仲」「馴染む」「習う」「慣れる」「なごやか」「なだらか」などが存在する。「波」はそのイメージを持つ代表格の言葉である。

注12  日本語は、母音で終わることを原則とする開音節の言語であるのも、この母音の重要性が元にあることと関係がある可能性がある。

 

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